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あなたなら助ける?青年の好奇心の先にあったのは…『悪人の娘』

  • sw2406
  • 2024年9月4日
  • 読了時間: 4分

更新日:2024年12月25日


一万四千字ほどの短編の中に詰められた謎を、突然の出来事にとまどう主人公の青年と共に考えるのが愉快であった。短編な故、登場する人物は多くないが、次々と主人公の目の前に現れる人物たちは個が強く、自分がこの青年ならば半端な好奇心などは捨ててそのまま見ないふりしたいところ。幸運なことにこの青年は学校を卒業したての好奇心旺盛な若者であったため、私たちを謎の中に否応なしに誘い(いざない)、そして若者らしい行動力でその謎に近づき、最後読者とともに真実を知ることとなる。


目次



あらすじ


主人公の男が突然橋の上で乞食体の中年男性に声をかけられ、この後やってくる一人の娘を助けて欲しいと金を渡される。あまりに酔狂な申し出に困惑した主人公だが、中年男性が去った後、本当に1人の美しい娘が橋の上に現れ、ほどなく身を投げようとする。娘は何故身投げをしようとしたのか、そして娘を助けて欲しいと金を渡した男性は何者なのか?


出版社・底本


末国善己編 作品社 2007年「野村胡堂探偵小説全集」(所収「悪人の娘」)

※この「悪人の娘」は青空文庫にて無料公開されております。

カテゴリー:ミステリー小説


著者情報


著:野村 胡堂(のむら こどう)

昭和31年『銭形平次捕物控』の第一作「金色の處女」を発表。

その後も『銭形平次捕物控』シリーズを始め、他作品を次々と出版する。

映画やテレビドラマなどのメディア展開も多数。

主な受賞歴:菊池寛賞(1958年)


みどころ


「お願いで御座いますが…………」という乞食体の男の発した言葉。話しかけられたのは主人公の青年「鳴海司郎」。話しかけてきたのは、なりは乞食のボロボロの男。しかし、その男の振舞いや話し方でただの乞食ではない、初めからそう見抜く鳴海の洞察眼にはミステリの匂いがした。

当たり前だが謎解きの主人公が愚鈍・鈍感ななまくら刀ではお話にならない。おまけに上記したように好奇心旺盛な若者である。これはこの若者に物語を委ねて、思う存分に乞食から提示された言葉に振り回させていただこう、そう思えた序章だった。

そして鳴海司郎は、読者が望んだとおり自ら自分が出会った謎に徐々に近づいていく。乞食と身投げをしようとした娘、鳴海から金を巻き上げたゴロツキ、ゴロツキ共とそれから逃げる乞食。すべての謎を知るべく鳴海は動く。


読了時間

30分程


評価


読みやすさ

まず最初に、小説の中に明確な時代は書いてはいないものの、言い回しや仮名遣い、そしてこの小説が書かれた年代から、昭和初期のお話であろうと推測される(限定はされていない) そのため「読みやすさ」という点ではどうしても分が悪い。単純な言葉の選び方や展開や話の運び方の問題ではないからだ。しかしそこをクリアしてしまえば、上記したように登場人物は少なく複雑なことはない。一万字超え程度の短編をさらに七章に分けてある、ここで場面が変わりますと提示してくれている。と、よほどでなければそんなに煩わしいことはないと思う。


意外度

ネタばれになるため詳しくは書けないが、この少ない登場人物と出来事の中に、まさかの展開を忍ばせており舌を巻いた。鳴海からみた「謎」はある人物からみると……。ミステリでよくある展開じゃないかと言われればそうかもしれないが、この変身ぶりは想像もしていなかったため、とりあえず私はすぐに話を再読することとなった。


どんな人におすすめ?


さらりと短時間で謎解きが読みたい方

前述したとおり昭和前期に書かれた作品のため、今の小説とは言い回しや仮名遣いが違っているため読みづらい部分があります、それを気にせずに楽しめる方。


総括・感想


正直私も最初読み始めは仮名遣い、言い回し等に慣れずに読むの断念しようかと思ったが、短編であることと、橋から身投げするような娘の事情が気になり、分からない単語が出てくる度に調べながらそのまま読み進めた。話は無駄なくどんどん進み、各登場人物が絡み合うたびに、謎が少しづつほどけていくのは気持ちよかった。最終章はエピローグとして、誰某(ネタばれになるためこの書き方をさせていただく)からこれまでの鳴海が巻き込まれたすべてのことの種あかしがあるが、その際にちょっとした救いを入れてくれたのが、大層好ましい。物語の慰めとなったと思う。


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