内定がかかった心理ゲーム開始の合図は六通の封筒『六人の嘘つきな大学生』
- sw2406
- 1月15日
- 読了時間: 5分

私自身は大学に縁がない人生だったため、大学生の就職活動というものを大変興味深く読んだ。さすが大企業の最終選考に残った面子、ほぼほぼ決まりだろうという面接でも一瞬一秒たりとも気を抜かない。思考能力や行動力すべてが完璧な者ばかりが残った。これからどんな物語が繰り広げられるのかと期待して読みすすめていくと、なんともまあ全員が全員ともしたたかで、「嘘」というオブラートでくるんだ就活生が姿を現す。
この中で一番したたかで周りをより狡猾な「嘘」と「罪」で周りをかき乱す『犯人』は一体誰なのか――。
目次
あらすじ
憧れの大企業への就職活動、残った六人に与えられた最終選考はグループディスカッション。この結果いかんによっては六人全員の合格が約束されていた。六人は揃っての内定を得るため、全員一丸となりグループディスカッションのための準備に励み、徐々に仲間意識が芽生えていく。その最終選考の数日前に突然採用担当者から六人全員にメールが届く。「採用するのは一名」「六人のグループディスカッションにより内定者を決めること」。それまで同士だったはずの六名全員がライバルとなり運命の最終選考に挑むことになる。
内定者を決めるためのグループディスカッションの最中に発見された各人に宛てられた六通の封筒。一人が封筒を開封するとそこには「人殺し」との告発文が入っていた。六人の罪と嘘とは?そしてこの封筒を仕掛けた犯人、その目的は内定欲しさなのかそれとも――?

出版社・ページ数・価格
出版社:KADOKAWA
ページ数:304ページ
価格:1,760円(税込)
ジャンル:ミステリー
著者情報
著:浅倉 秋成(あさくら あきなり)
2012年、講談社BOXより『ノワール・レヴナント』でデビュー。
主な著書:『教室が、ひとりになるまで』『ファーストが裏切った』『俺ではない炎上』他
受賞歴:本著書にて「第12回山田風太郎賞候補、ブランチBOOK大賞2021大賞受賞」
「第43回吉川英治文学新人賞候補」「第22回本格ミステリ大賞(小説部門)候補」「第19回本屋大賞候補(第5位)」
みどころ
ふたつに分かれたパートの間に挟まるインタビューは、物語の合間に唐突に挟まってきて、最初誰が行っているものなのかわからないようになっている。物語が進むとともにインタビューもどんどん人を変えて進んでいき、最後にインタビュイーから明かされるインタビュアの正体にやっぱりという気持ちだったり、がっかりしてみたりしながらも、この先の謎を知るためにページをめくる手をそのまま進めていった、その先にいる犯人を知るために。

読了時間
3時間程
評価
読みやすさ
主要な登場人物は六名、そのほかにはその六名の家族や面接官がかかわってくる。小説は2つのブロックに分けられているて、前半の「就職活動」、そして後半の「それから」。そしてその合間合間に最終選考にかかわった面子のインタビューが挟まる。文章にとりたてて癖もなく読みやすい方だと思う。犯人は六人の就活生の中に必ずいるので、(人は死なないけれど)これも一種のクローズドサークルものといえるのかもしれない。
ワクワク度
最終選考を行うところが本番であり一番の見せ場である。
最終面接への入室時から各自のひりつく空気がこちらにまで伝わってくる。
通常の面接とは違い、最終選考に残った大学生同志が互いを選考し内定者を決めるという変わった選考、どのような話し合いが行われるのか初手から目が離せない場面だ。
しかし、前述したように会社の内定者を決める話し合いだったはずが、各人に配られた封筒により、人間のドロドロした部分を見せるもの、それでも皆を信じて居たいという自分の信念を曲げないもの、それぞれ六者六様の言動、想いが錯綜することになる。それはとても興味深いものだった。特にこのパートの主人公にあたる人物の行動は、私の浅はかな考えのはるか先をいくものであり、この面接の時点では主人公が何を考えこのような行動をとったのかわからず困惑する、しかしのちのパートで彼の考えは他の人物によって紐解かれることになる。
どんな人におすすめ?
・ミステリー、謎解き物が好きな方
・ただいま絶賛就活中の方から就職一年目の方 or 人事部にお勤めの方
総括・感想
対象年齢
高校生から
総合評価
★★★★★
感想
この作品は現代の就職面談を痛烈に皮肉っているのが面白い。面接を受ける大学生は自分のことを、提出する書類で、面接で華美に飾り、そのくせ外見は華美でないスーツとナチュラルメイク、黒髪で真面目さをアピールする。そして会社側も、嘘や誇張を並べて「良い企業」をアピールする。互いに嘘と誇張を巧みに操る姿はさながら狐と狸であろう。
そんな一流企業の就職面談を舞台にして、見事最終選考に選ばれた「優秀」と呼ばれるであろう六名の人間。ある人物の告発を切っ掛けに、六名の嘘や汚点を次々にあばいていこうとする、その各人が一人また一人封筒により告発されることにより、徐々に疑心暗鬼になっていく描写がとても巧みでうまいなと感じた。人間は自分が見えてる一面だけではなく、別方面からみればまた違う見解や感情が見えてくる。そんな当たり前なことがこの小説では上手くかかれている、伏線回収の仕方が見事であった。

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