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彼らが乗ることになった方舟の結末は果たして…『方舟』

  • sw2406
  • 2024年11月6日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月24日

ミステリー小説でどんでん返しものが読みたいと手に取った作品。

最初から自分が今まで読んできた「どんでん返し」ものを思い浮かべながら、読んでいる最中ああではないか?こうではないか?と主人公と一緒に考えながら読んでいたが、全くの見当違いの推察であった。そしてそれがわかっても「やられた!」という気持ちすら起きなかった。ただただ茫然である。そして件(くだん)の部分を読み返しては、何度も何度も身震いするのみであった。


 目次


 あらすじ

大学時代の友人5名、そして従兄ともに山奥の地下建築を訪れることになった主人公「柊一」。ちょっとの寄り道のつもりだったが、結局その地下建築で一夜を過ごすことになってしまう。かつて中に入ったことのある1人の友人の案内で中を探索することとなったが、中は各部屋に番号が振られていたり、食堂や倉庫などがあったり、入口と非常口にカメラがついている監視室があったりと、どのような目的で使っていたのかわからないような不気味な場所。そこにふとした偶然から、きのこ狩りに来たという矢崎家三人と合流することになる。

そして翌日、突然起こった地震により地下建築に閉じ込められてしまう10名。さらに地震による影響で地下水が徐々に上昇してきた、このままでは地下建築とともに水没死してしまう。そんな極限下で起こった“殺人”によりさらに追い込まれる9名。このままだと全員死ぬ。そんな中に射したひとつの光が。――――誰か一人犠牲になれば残りの人間は助かる。

その生贄になるべき殺人犯を探して、地下水が上がり切る前の一週間のリミットで、主人公と従兄、友人、矢崎家が犯人を見つけるべく広い地下通路を奔走する。


 出版社・ページ数・価格

出版社:講談社

ページ数:304ページ

価格:1,600円(税別)

ジャンル:ミステリー


 著者情報

著:夕木 春央(ゆうき はるお)

2019年『絞首商會』で講談社よりデビュー。

2022年『方舟』が「週刊文春ミステリーベスト10」2022国内部門「MRC大賞2022」ランキング1位。第44回吉川英治文学新人賞候補作品となる。

主な著書:「方舟」「十戒」「サロメの断頭台」他


 みどころ

この小説はいわゆる「クローズドサークル」と言われる密室ものの一種である。作られた閉鎖空間の中で(この場合は地下建築)起こった殺人事件の犯人を見つけ、その犯人を犠牲にし、残りの皆で助かろうという物語になっている。人殺しを見つけその犯人を絶対に助からない場所に残し自分たちだけ助かろうとする行為は果たして「殺人」と何が違うのか。葛藤する主人公だが、死にたくないという強くそして屈した弱い心、そして何よりせまる命のタイムリミットにより犯人を捜すため懸命に動く。そして最後、ついに探偵役をつとめる人物が犯人を追いつめる。しかし本当の物語はここから――。何という皮肉な結末なのか。見事な推理を見せた探偵役も、犯人からすれば釈迦の手のひらの上。「完璧」だと言って見せた口で最後に「○○○○」と言う。これには本当に度肝を抜かれた。犯人に、そしてこの小説を書き上げた作者に。


 読了時間

3時間程度


 評価

読みやすさ

初「夕木 春央」作品だったため文章に慣れるのに時間がかかるかなと思ったが、面白さや続きが気になって割とするすると読めた。とくに文章に癖があるわけでもないので、他の方でも読むのに特に苦労する面はないと思う。クローズドサークルなため、出てくる人物は10名と決まっている。この中に被害者になる者、そして犯人になる者が必ずいる。これは鉄板で動かない。“実はひっそりと別の犯人が隠れていました”ということはないので安心(?)して欲しい。


ワクワク感・夢中度

上記したように、10人の登場人物と一週間というタイムリミット付きなため、徐々に追い詰められていく登場人物とは逆に、自分はハラハラしつつも犯人を考えるのが楽しかった。物語のどこに伏線は張られていたのだろう。あのシーンは主人公にはスルーされていたが、もしかして意味のあることではないのか?何回かでてくる印象的なあの場所は?気になるところはそこかしこにあるがこの“点”に意味があるのか、これは最後の点と点を結ぶ“線”のための“点”になりうるのかエトセトラ。いつもミステリー小説を読む時に思うことだが、今回は特に伏線というか気になるシーンをちゃんと読者の脳内にうっすらと残し、種明かしの際に「あ、あそこか!」とページをめくり返さなくても印象に残す作者の手腕はすごいなと思った。


意外度

この「意外」を求めて読んだ小説なので、何を意外とするのか書いてしまうとそのままネタバレに直結するため上手く書けないのだが、どれだけ意外性がある小説ですとあらかじめ予告されていても、この結末を予想できる人などこの世の中には100%いないと思うし、読んだ後も、もう一度読み返して確認したくなるのは確実だと断言できる。


 どんな人におすすめ?

・勿論ミステリー小説、そしてどんでん返しものが好きな方

(ミステリー好きじゃなくてもとりあえず最後まで読んで一緒に驚愕して欲しい)


 総括・感想

対象年齢

 中学生から

総合評価

 ★★★★★


感想

この作品『方舟』はもちろんノアの方舟の「方舟」からである。物語の舞台の地下建築が三階建てであることや小部屋がたくさんあること、地下水が徐々に上昇してくる(創世記では洪水であるが「水」で人が死ぬという点は共通している)ことからわかる。タイトルからなかなか面白い発想だなぁと思った。――ノアの方舟のことは正直あまり詳しくはないので、これはウィキペディアで調べなおしての感想であるが。「ノアの方舟」を改めて知ると、この作品もまたなんと皮肉な物語の結末を迎えていると感じた。

しかし色々なミステリー小説を読んできたが、ここまできれいにどんでん返しをくらったのは久しぶりで気持ちがよかった。もう一度記憶を失くして読みたいと思うほどの傑作だった。


※最後に、著書を最後まで読み終わったひと用に『方舟』読者専用ネタバレ解説というサイトが講談社より用意されている。有栖川有栖氏(小説家)、影山徹氏(本作品装画)によるネタバレありの解説、QuizKnockの山本祥彰氏を迎えての動画でのネタバレ感想などがあり面白かった。


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