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最後の一文で好き嫌いが分かれる作品『噂』 

  • sw2406
  • 1月15日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月30日

この小説を最後まで読むと、最後の一言でこの小説の評価ががらりと変わるようだ。それは人により傑作となり、人により蛇足となる。私は前者であった。確かにちょっとした唐突感は否めなかったが、最後のセリフでぞくりと肌が粟立ったのは間違いなくこの小説を傑作と結論付けたことを証明するものであった。


 目次


 あらすじ

女子高生たちの口コミや噂を利用して新ブランドの香水を宣伝しようとする広告会社。その噂の中に「レインマンが出没して女の子が足首を切る、でもミリエル(香水)をつけていると狙われない」をいう嘘を巧みにまぜて販売戦略を成功させ香水は大ヒットする。しかし「レインマン」の噂はやがて現実となり、足首の切り落とされた女の子の死体が連続で発見される。刑事課の小暮は警部補の名島と共にこの事件の捜査にあたることになる。


 出版社・ページ数・価格

出版社:新潮社

ページ数:492ページ

価格:935円(税込)

ジャンル:ミステリー


 著者情報

著:荻原 浩(おぎわら ひろし)

1997年、集英社より『オロロ畑でつかまえて』でデビュー。

主な著書:「コールドゲーム」「明日の記憶」「あの日にドライブ」「笑う盛」他

受賞歴:「オロロ畑でつかまえて」小説すばる新人賞、「海の見える理髪店」直木三十五賞、他多数受賞歴あり。


 みどころ

妻を早くに亡くし、高校生の娘と一緒に暮らす小暮刑事。そして三十手前にして警部補のエリート警部補の木島が、連続殺人を追いかけるのを主軸にして物語は進む。自分よりも年下の女性警部補と行動を共にすると聞かされた小暮は最初は困惑するのだが徐々に木島の洞察力などに一目おくようになり、パートナーとして信頼していくところは、バディものが好きな私としてはわくわくするところだった。

また、殺された女子高校生の足取りを追うために、渋谷の街にたむろする女子高生達に慣れないながら聞き込みをするが、ピンク髪で呪文みたいな流行り言葉を発する彼女たちに翻弄されるおじさん刑事の図は、多少滑稽みがあって面白い。そして彼女らと接するうちに徐々に若者言葉になれていくおじさん刑事の図も大変面白かった。


 読了時間

6時間弱


 評価

読みやすさ

この書は2001年(平成13年)刊行された小説である。なので、渋谷を徘徊している女子高生たち、皆が当たり前に所持している携帯電話(スマホではない)、フェミニズム的なものエトセトラは20年以上前に脳をタイムスリップさせて読む必要があるので、若い人には多少時代背景がわかりにくく、読みにくいかもしれないと思った。実際にその時代を生きていた自分はなんとなくその時代を思い出しながら読んでいった。登場人物は割と多い。しかし実際に必要な人物はちゃんと覚えているもので、普通に読んでいればあなたの脳裏に残った人物の中にちゃんと犯人はいる。


おもしろさ・夢中度

単行本裏のあらすじの「レインマン」から連想したのは「切り裂きジャック」だったのだが、全然違うものだったのはちょっと拍子抜け。しかも商品販売戦略のための仕掛け人付きだという。しかしその仕掛けた噂「レインマン」が現実となり連続殺人となるところは、ぞくりとするし、非常に興味をそそる物語だとあらすじから高揚した。

主人公はさえない中年刑事ではあるが、パートナーとなる年下の警部補との掛け合いの変化も大変好ましく、お互いが足りないところを補うように事件と対峙していくのはわくわくするところでもあった。上にも書いたように私は性別問わず警察のバディものが大好物である(バディと呼ぶのはちょっと違うのかもしれないが、踊る大捜査線の青島と室井の二人も大好きだ。閑話休題)

この事件のカギを握るのは被害者と同じ年代の若者。つまり高校生なわけだが、普通の高校生ではなく渋谷を拠点として群れる、当時いわゆるコギャルと言われていた子供たちだ。もちろん小暮とは事件のことがなければ一生接点がない人種だろうが、最初はとりあえず警察相手だし聞かれたことには答えとこぐらいの反応が、向こうから暇だから協力するよーと軽く声かけてきたり、小暮刑事が女子高生たちにマックをおごったりするのが、ちょっとした利害が一致した上とはいえ、ちょっと微笑ましくて面白くて好きなシーンだった。

あと、事件の中心となる「レインマン」を追う上で重要なカギとなるところ、女性視点からしかでてこない気付きにより一気に警察署内の犯人像が変わり、捜査が進んでいく場面も良かった。同じものをストーリー上で提示されていたにもかかわらず、私は全くそこに考えは及ばなかった。男性作者だと思われるが、このことで死体を他殺体に変えてしまうのはすごいと唸ったし、詳しく説明されるまで気づかなかった自分がちょっと悔しい。


意外度

正直、犯人の意外度はあまりなく、途中~2/3読んだくらいからこの人かな?と思う人物には目星はつくと思う。正直この物語の一番のポイントは犯人が誰か?ではないと思っている。もちろんミステリ小説なので犯人を予想しながら読むのが醍醐味ではあるのだが。最後にそれ以上のことが待ち構えていた。


 どんな人におすすめ?

・ミステリー、謎解き物が好きな方

・男女のバディ刑事ものが好きな方


 総括・感想

対象年齢

 中学生から


総合評価

 ★★★★☆


感想

本編の「レインマン」事件も面白く、犯人の奇態で異様なさまに驚愕させられたが、読者が一番驚愕するのは一番最初に書いたように、物語の最後の最後だ。これを是とするか非とするかは読んだあなた次第となるし、この物語の評価を0か100にするかもあなた次第となる。



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