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これをハッピーエンドなのか否か決めるのは読者『みんな蛍を殺したかった』

  • sw2406
  • 2月10日
  • 読了時間: 5分

 目次


 あらすじ

京都にある落ちこぼれ女子高に通う三人(雪、桜、栞)は、生物部というのは名ばかりの部室でそれぞれのオタク趣味に興じている。そこに東京から転校してきたという美少女「蛍」が入部希望だと扉を開けて立っていた。その美貌で女神のように微笑む蛍。私もオタクだと告白する蛍。三人と「親友」だと徐々に交流を深めていく蛍。確実に彼女の存在で三人がそれぞれ変化していく。そしてある日、蛍は線路に身を投げ死んでしまうーーー。彼女の死の真相はわからぬまま年月は経ち、やがて「蛍」の残した悲劇の暗部に三人の人生は絡めとられていく。


 出版社・ページ数・価格

出版社:二見書房

ページ数:279ページ

価格:1,700円(税別)

ジャンル:ミステリー


 著者情報

著:木爾 チレン (きな ちれん)

2012年8月、幻冬舎より『静電気と、未夜子の無意識。』でデビュー。

主な著書:「静電気と、未夜子の無意識。」「みんな蛍を殺したかった」「二人一組になってください」「わたしのこと、好きになってください。」他


 みどころ

スクールカースト最底辺を泳いでいたオタク三人(雪、桜、栞)と、「東京から転校してきた美少女」という掛け合わせてはならない組み合わせ。しかしかけあわせるとどうなるんだろうと興味をそそられる組み合わせ。見事に釣られた私が甘かったと後悔する。しかしその後悔とともにページをめくる手は止まらない。蛍を知りたいと思う心は止まらなかった。蛍に絡めとられていく三人と読者。しかしそれに反して誰とも絡み合うことはない蛍が怖くも悲しくもある。


 読了時間

3時間程


 評価

読みやすさ

元々ライトノベル小説やボカロ小説を書いている作者の書く作品なためか、300ページ弱を三時間程度で読めるのはとても読みやすい方だと思う。難しい言葉選びや言葉運びもない。この小説の対象者が学生でもあるのだろう。登場人物も中心となるのは、転校生の蛍。そして女子高生三人。その家族やクラスメイト。多そうには見えるが、文章構成自体が、各人(蛍とその女子高生三人)の一人称が交互になっているので、混乱はしないと思われる。


ワクワク感・夢中度

前半はオタク三人(雪、桜、栞)からの視点、後半は蛍からの視点で話が進む。最初は蛍に好意的だった三人が徐々におかしさに気が付き始める、ホラーのようなゆるやかな怖さがある。後半の蛍視点から前半の三人へ対する答え合わせのような展開もよい。ここで謎がかみ合っていく。蛍のターンに入ってからはますます目が離せなくなる。


共感度

この物語で共感できる人物がいるなら誰だろうと考えたが、オタク趣味持ちの私ですら、誰の心にも共感できない。逆に現実にこの物語の誰かと共感性がある人物がいたら、迷わず距離を取りたい。そこまでみんなどこか壊れた登場人物ばかりだったように思う。みんな、特に未成年に対してはそこまで悪感情はないのだが……とにかくみんな環境が悪すぎたとしかいいようがない。ある意味可愛そうな人物ばかりだった。


意外度

前述したとおり後半は蛍のターンで、ある意味答え合わせである。ここで最大級に期待をしていたし、その期待を裏切らない部分もあった。が、そうでない部分もあった。これどこかでみたような話だなと、意外性がなく、展開が簡単に読めてしまう箇所があるのがとても残念でならない。しかし蛍の死の謎にはさすがに自力ではたどり着けなかった。多少無理がないか?と思うところでもある。しかしここで種明かしをされたあとに、冒頭の「non title」に戻ると、彼女の死が、彼女の最後の言葉が何と美しいことかと。バラバラの肉塊になってしまった彼女に対して、なんとその心の美しいことなのだろうと最大の敬意を払いたくなる。


 どんな人におすすめ?

・学生時代にいわゆるオタク的な黒歴史がある方

・わりとベタでもおもしろければなんでも良しな方


 総括・感想

対象年齢

 中学生から

総合評価

 ★★★★☆


感想

スクールカースト最底辺にいた女子高生三人。それぞれ家庭や自身に問題をかかえつつ、生物部の部室ではオタク趣味を満喫しつつ家路につくというがまさに底辺も底辺な学校生活を送っていた。まるで過去の私のようで自分の中の暗部が疼く。

高校生という多感な時期の顔や体の美醜は、自分の性格も周りの評価もすべてよくも悪くも変えてしまう。この物語はすべて悪い方へ悪い方へ転がった。その最たる弊害を受けたのが蛍と栞、桜、雪の少女たちだったように思う。特に一人の少女の人生の結末は悲しい。

「十数年経った今も、彼女を殺したことを後悔している」と自戒しているのが私にはせめてもの救いだ。


ネタバレ含む感想(以下注意)























オタクだった妹が嫌いだから、母を殺し家族をバラバラにした妹が憎いから、同じオタクに復讐をする。動機が浅はかすぎないだろうか。彼女の家庭環境の悪さや10代故の若さということを差し引いても何かしこりがのこる。後半の蛍の狙いが稚拙な復讐によるものだとわかってくると、蛍の行動の先が見えてきてしまい、それがものすごく小説等でよく見たあるあるなストーリーとなっていて萎えてきてしまうのが残念。

しかし、蛍が人を殺してしまい栞が身代わりになる辺りは、蛍のことを勝手な女だと思いながらも、栞と蛍、ほんのつかの間、二人の間に本当の親友のような時間が流れるのが、互いに最初からこうなれていれば、こういう何気ないことに笑いあったりできる親友になれればと切なくなる。蛍が栞の髪を染め、会話をして、二人で裸でシャワーを浴び、栞が蛍の服を身に着ける。きっと二人はこの短く美しく悲しい時間を本当に大切に楽しく過ごしたに違いない。栞は蛍に裏切られてもなお彼女に心酔していた、そして両親の秘密を知り絶望し、その上で蛍の身代わりになり、わざと身体がバラバラになるように電車へと飛び込む。しかし栞が蛍に身代わりになると自分から言い出すまでの、まるで恋情にも似た栞の心の動きはもうちょっと丁寧に書いてあってもよかったと思った。栞が蛍の美しさに陶酔していたのは描かれていたが、代わりに死んでいいと思うほどだったとは思えなかったので。


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