top of page

未来の宇宙へようこそ!五人の月面仕事人が躍動する世界から目が離せない『MOON FIGHTERS!』

  • sw2406
  • 2024年8月23日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月14日

とにかくプロローグから引き込まれた。何気ない幸せな家族の、ほんのささやかな宇宙旅行の一コマから始まる物語。子を思う親の愛情、と同時にその子供に刻まれたのは自分自身でも気が付かない心の奥底にできた深い傷。初手からもうすでに「MOON FIGHTERS!」へ、私自身が未来への宇宙空間へ、そしてこの主人公のこれからの生き方へ、彼の未来へ惹き込まれていった。


 目次


 あらすじ

大人気ライトノベル「フルメタル・パニック!」シリーズを手掛けた賀東招二が、KAエスマ文庫(京都アニメーション)に初登場。未来の宇宙を舞台にして、月面救助隊「ゲッキュー」に入社したての主人公が同じチームの四人の仲間と、月で起こるトラブルに立ち向かうストーリー。


 価格・出版社・ページ数

価格:858円(税込)

発行:株式会社京都アニメーション(KAエスマ文庫)

ページ数:306ページ

カテゴリ:ライトノベル・文庫


 著者情報

著・賀東招二

1994年富士見ファンタジア文庫よりデビュー

代表作「フルメタル・パニック!」シリーズ、「甘城ブリリアントパーク」等。


京都アニメーション作品「フルメタル・パニック!ふもっふ」「フルメタル・パニック!TSR」「甘城ブリリアントパーク」「氷菓」シリーズ構成、他脚本を手掛ける。


 みどころ

とにかく宇宙に関する情報及びレスキューに関する情報量がすごい。本の最後に記されている「参考文献」の量がとてつもなく、書籍だけで49冊、その他雑誌等合わせると74冊もの文献を資料にして、フィクションの月面救助隊を書き上げている。私達の知らない「未来の宇宙」が、さも本当にあるかのように錯覚する程、世界の整合性がとれているのは素晴らしい。そしてその世界を主人公が自分の信念のもと、新人月面救助隊として周囲を巻き込みつつレスキューに駆け回る姿には目が離せない。


 読了時間

2時間30分~3時間程


 評価

読みやすさ

まずライトノベルということもあり、普通の小説と違って「口絵」や「挿絵」があることは物語を読むにあたっての一助となっている。自分の場合はキャラクターを頭の中で映画のように動かしながら読むので、するすると頭のなかで物語が展開されていきやすい。

主な登場人物は5名。主人公、その上司(隊長)、同僚が中心となりストーリーが進んでいくのだが、主要人物それぞれ個性的な色にまつわる苗字をしている。その色のイメージとキャラクターシンクロしているため、日朝の戦隊モノのようにキャラの造形が容易で面白い。(例えば、真朱(赤)→情熱的・活動的。刈安(黄)→オープンで明るいなど) 5名のキャラ把握に名前が一役かっている。あれ?このキャラどんなキャラだったっけと前のページを捲り直す必要はなかった。

あと「未来」「宇宙」と書くと、私達とは別の世界の人間的な印象だが、著者のあとがきによれば変わった名前という以外は普通のにぃちゃんで、仕事休みにはダイソーで買い物したりする、でも仕事には真面目に取り組むにぃちゃんらだとのこと。単行本1巻分ということもあり、そういう描写を入れる余裕はなかったのか、休日や日常的なことは描かれていないが登場人物の軽快な会話のやりとりをみると確かに、ダイソーでスポンジ買ってても、ローソンでからあげクンを買って頬張っていても違和感は感じない。未来にもコンビニや100均が存在するかと思うと親近感が湧く。


テンポ感

物語としてのテンポ感はあるのだが、どうしても世界観的に新しく目にする用語が多いため、私は一度止まって言葉を噛み砕き脳の中で展開させて動画に落とし込むという作業が必要が故に途中で中だるみができてしまう。これはそれぞれの人の小説の読み方によって違うし元の知識量も違うので、あくまで「私の場合」であることは強調させて欲しい。


おもしろさ・ワクワク感

未来の宇宙という舞台でも、人と人の繋がりや、レスキュー隊というの仕事への意義・意志は変わらない。主人公を通してみるこの世界は、今の私達が住む世界と何ら変わりないように感じた。だからこの作品の月面救助隊という耳慣れない仕事の物語でも、他の物語と変わりなく楽しく読めた。そして会話のテンポ感、主人公の月に不慣れなところを揶揄う同僚や愚直なまでに真っすぐな性格ゆえに生まれてしまう、上司や同僚とのコントのような会話の掛け合いはコミカルでつい顔に笑みが浮かんでしまう。


 どんな人におすすめ?

ライトノベルに抵抗がない方。

宇宙を描いた小説に興味がある方。

暑苦しいほどの男たちのお仕事ストーリーに飢えている方。


 総括・感想

流石、作家として四半世紀以上第一線で活躍している賀東招二!と唸る世界観の作り込み。未来の宇宙という架空空間でのキャラクターのやりとりなのに、丁寧に物語の導入を作っていて話への引き込みが上手い。

主人公は一見すると正義感溢れる弱冠二十歳の青年。初めてのG(重力)や訓練などに悪戦苦闘しながらも、何とか周りの手を借り成長していくというストーリーなのだが、そのバックグラウンドには悲しい過去があることがプロローグで提示され、彼が仕事現場で自分の命を顧みない無茶なレスキューを行ってしまう理由のひとつであることが示唆されている。その主人公を諫めながらも徐々に彼のことを理解し、自らも体調という立場を鑑みながらも無茶な主人公を助ける。そして同僚の三名の隊員たち。まさしくレスキューという仕事に信念を懸けた熱い男たちのストーリーだった。

……とここまで書くとすごく暑苦しくむさい小説に思えるが、そこは長年活躍している作家、フルメタル・パニック!の生みの親。主人公と隊長、それぞれの隊員との変わった出会いや、訓練中のやりとり、あいだあいだにくすっと笑いを誘うテンポの良さ・緩急は読んでいて飽きることがない。ライトノベルと侮ることなかれ、是非読んでみて欲しい作品である。


 ***************************************


作者がこの小説を書いた経緯について。

2019年7月19日、著者の盟友「武本康弘」が京都で起きた痛ましい事件のため亡くなった。その盟友が構想していたオリジナルアニメーション作品、それを形を変えて賀東氏が形にしたものがこの「MOON FIGHTERS!」である。これは作品あとがきで著者自身が詳しくふれているため是非そちらを読んで欲しい。


 レビュー依頼・お問い合わせ


レビューの依頼や感想、ご質問等お気軽にお問合せ下さい。





Comments


bottom of page