祖母との穏やかな生活、そして少女の成長の物語『西の魔女が死んだ』
- sw2406
- 2024年9月24日
- 読了時間: 5分
更新日:2024年12月25日

小説の書き出し「西の魔女が死んだ」でドキリとする。続く「四時間目の理科の授業が始まろうとしているときだった」で頭が混乱する。ファンタジーだと思った書き出しから“理科の授業”と誰もが耳慣れた単語。これは一体どのような物語なのだと、序文で意識を引っ張られた。私も主人公と一緒に二年前のまいと祖母の、柔らかく優しく少し苦い暮らしに誘われていく。
目次
あらすじ
入ったばかりの中学校に馴染めず登校拒否になってしまった「まい」は母の提案で、大好きな祖母と田舎で一時的に一緒に暮らすことになる。祖母との何気ない穏やかな日々の中で”魔女になるための修行”をすることになる「まい」。その祖母との暮らしの中で徐々に人として成長していく。

出版社・価格・ページ数
出版社:新潮文庫
価格:460円(税別)
ページ数:226ページ
著者情報
著:梨木香歩(なしき かほ)
「西の魔女が死んだ」にて小説家デビュー。
本書にて「日本児童文学者協会新人賞」「新美南吉児童文学賞」「小学館文学賞」を受賞。
2005年3月にラジオドラマ化、そして2008年6月に映画化されている。
小説の他にも、児童文学、絵本、エッセイ、翻訳なども手掛ける。
代表作:「西の魔女が死んだ」「裏庭」「家守綺譚」等
みどころ
「おばあちゃん大好き」とまいが言えば、「アイ、ノウ」(知っているわ)と返してくれるイギリス人の祖母。とにかくここは暖かい世界だった。とある理由で学校に行けなくなってしまった主人公まいを両親も祖母も否定しない。まいは大好きな祖母の元で、祖母の手伝いをし植物の名前を学び、たわいのない話をする。お気に入りの場所で思い切り深呼吸をする。そんなまいの生活にとびこんできた祖母からの、魔女になるための訓練。
「魔女」という言葉がでてくると、とても素っ頓狂で突拍子もないことに聞こえるが、祖母から教えられることは、すべてまいを生きやすくしてくれる魔法のような言葉たちだった。こんな素敵な世界に触れられるまいをうらやましく思った。しかしそんな世界にもまいを苦しめる出来事はやってくる。大人になれば避けられないことではあるが、まいは中学にあがりたての心を痛めて祖母の元で療養中の少女だ。まいが感受性豊かな故に起こる衝突は、かつて同じように少女であった自分の心にもチクりと棘を差した。

読了時間
2時間程
評価
読みやすさ
この作品は小中学生向けの推薦図書として挙げられてるだけあり、難しいことは何もなく読める。作者が児童文学や絵本を書いているという経歴も関係するのかもしれない。登場人物は少なく片手程度である。関係性も両親、祖母、近所の男、クラスメイトとわかりやすい。
テンポ感
祖母の家へ行ってからは、ただただ平坦な道を同じスピードで走っている感じがして少々辛かった。まいと祖母にとってはとても素敵な時間で、そこに自分も幸せを感じほっこりするのだけれども、ちょっとテンポの緩さに困惑した。言葉選び、言葉運びが「海外の児童文学」を彷彿とさせる(祖母がイギリス人設定だからだろうか?)
世界観・共感度
タイトルを見て「魔女」がでてくるのかぁ…と思い読み始めたところ、出てきたのは祖母が大好きな少女と、とても少女を愛してくれる祖母。素朴な祖母の家、鶏小屋、月桂樹やキンレンカ、野菜はハーブが生る(なる)庭。と少し都会から離れたとても平和な世界。自分がまいならば同じように、自然と息を吸えて、自分が好きだと言えば「知ってるわよ」と当たり前のように返してくれる人がいるおとぎ話みたいな場所から永遠に離れたくない。中学生の頃の私にもこんな場所が欲しかった、私だけでなくこの話を読んだ大人は皆同じ事を思うかもしれない。しかしこの世界にもゲンジという、まいが苦手な男性が出てくる。ある意味主人公にとってはおとぎ話における悪役のような人物であり、つられて読んでいる私も悪印象を抱く。しかしこのゲンジの印象もまいが2年後に再会したとき少し変わることになる。この本人も予想してなかった心境の変化は、まいが祖母と暮らした一か月と、離れてからの2年で成長した証のひとつなのだろうと思う。
どんな人におすすめ?
・主人公の中学生「まい」と同世代の子供
・かつて「少年」「少女」だった大人たち
総括・感想
対象年齢
小学生高学年から
総合評価
★★★★☆
感想
この物語は、祖母と少女の一か月間の魔女修行という名の、少女の成長物語だ。祖母の能力・魔女の話に興味を持ったまいが自分にも魔女の血が流れていて、超能力を遣えるかもしれない、と子供らしい探求心で祖母に魔女修行をねだる。しかしそこには超能力への好奇心もそうなのだが、人知れず学校で傷ついていたまいがもしも自分が能力を得たらもっとうまく生きれるのではないか、いやな思いをしなくてもよくなるのではないかという切実な想いがあったのが痛々しく感じた。
まいに祖母から与えられた試練は「自分で決める力」そしてその決めたことを「やり遂げる力」を養うという一見普通のこと。しかし祖母からまいに対して紡がれる言葉は優しく丁寧な気持ちでまいをくるむ。そしてまいを「魔女修行」という幼心をくすぐる言葉で「自分で決める」ということを発見させる生活にいざない、徐々にまいの心を解いていく。
私が上記した何もない平坦な道はまいにとっての「自立心」の確立、ひいては今持っている傷を癒していく歩みでありプロセスだった。こんなに丁寧に子供に生きる事を教えてくれる大人が今いるだろうか?私には無理だ。逆にまいと共に魔女の元で修行させてもらう立場だろう(もういい大人なのだが…)
最後に、このまま終わるのかなと思っていたところにあらわれた、中学3年になったまいと祖母のやりとり(?)は見事すぎて身震いした。私もまいと一緒にまいの祖母を想って涙しそうだった。まいの祖母がいたずらっぽく笑っている画が浮かんで思わず頬が緩んでしまった。
レビュー依頼・お問い合わせ
レビューの依頼や感想、ご質問等お気軽にお問合せ下さい。
Comments