SNSでの往復書簡で紡いだ小説『ルビンの壺が割れた』
- sw2406
- 2月10日
- 読了時間: 3分

ルビンの壺とは、デンマークの心理学者「エドガー・ルビン」が考案した多義図形。壺と人の横顔の2通りに見える反転図形で、トリックアートの一種。
目次
あらすじ
かつて婚約まで交わし結婚式当日に逃げてしまった女性を、フェイスブックで偶然みつけた男性。男性はメッセージを通じて彼女とやりとりを交わすことになる。時には昔話に花を咲かせ、時には恋人時代だったときの苦い話題に触れ……徐々に男性と女性のメールの間でいびつな空気が流れ始める。

出版社・ページ数・価格
出版社:新潮社
ページ数:156ページ
価格:1,000円(税抜)
著者情報
著:宿野 かほる(やどの かほる)
2017年、本書「ルビンの壺が割れた」でデビュー。
翌2018年には二作目の小説「はるか」を出版する。
※覆面作家であるため、ペンネーム以外の情報非公開。
みどころ
この話はある男女の往復書簡である。正確にはフェイスブックのメッセージでのやり取りなので書簡とは言わないであろう。ただただ二人のメッセージのみで構成された小説。「偶然」から始まった男と女の昔話。男が女と別れてから重ねてきた28年という年月を恐怖と評するのは言い過ぎであろうか?

読了時間
1時間弱
評価
読みやすさ
156ページという短さ故、読むのにかかった時間は正確には50分程度であった。
上記した通り、小説ではあるがかつて恋人であった男女が互いに宛てたメッセージのやりとりであるため読みにくいことはない。そして主要人物は二人。他にもメッセージの中に登場人物は存在するが関係性等複雑なこともない。
夢中度・意外度
まさかのメッセージのやりとりだけで小説を完成させてしまった。私はこの手の物語は初めて読んだため、こんな世界があるのかとビックリしてしまった。往復書簡的な形式なので互いのメッセージを交互に読みあうことになるのだが、最初は本当にさぐりさぐりだったメッセージが徐々に昔の真相に触れていくのにドキドキした。そして一通一通とメッセージが綴られるたびに互いの人生の深層にも触れていく。予想もしていないような展開へと物語が転がっていく。これは本当に160ページ弱の物語なのかと思う程、密度が高い。そして最後の最後にあかされる真実には眩暈を起こしそうになった。それまでに違和感はあったはず、しかし物語の続きを急いてしまうあまりにその違和感に見て見ぬふりをしてしまった。そしてまた自分の指は5ページ目へと戻っていく。「結城美穂子 様」と打たれた最初のメッセージへと。

どんな人におすすめ?
・短時間にどんでんがえしを味わいたい人
・小説を読むのが苦手だけどちょっと時間つぶしに読んでみたい人
総括・感想
対象年齢
中学生から
総合評価
★★★★☆
感想
本当に50分でするりと読めてしまうので、ちょっとした時間つぶしには最適だと思う。互いのメッセージを読みあうという単純さ故の読みやすさなのだろう。しかし小説としてちょっとしたスリルやミステリとしての要素も持ち合わせているので退屈はない。徐々に明かされていく互いの過去を読むたびに互いの印象が最初と全く違っていく。そして物語最後の言葉にたどりつくのだが、ページをめくっていきなり目に入ったその言葉に思わず笑ってしまった。フォントやサイズまで変えてくるその凝りよう。そんなところまで小説で演出してくるところには称賛を送りたい。

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